今回は Excel 新機能であるナビゲーションを使ったシート操作について紹介します。
エクセルさん、ありがとう!
Excel シートは扱いづらいものです。
本ブログでは以前から、Excel シートの操作性について、切り替えが素早くできないとかシート管理機能がないとかいった、使い勝手の不満を以下のような記事のネタにしてきました。
この度、なんと、最新の Excel に「ナビゲーション」という機能が追加されているのに気が付きました。
ナビゲーションはウィンドウ右側にシート名をリスト化したペインを表示するものです。
【Note】マイクロソフトの日本語の公式資料では、「Navigation pane」の「 Pane(ペイン)」を 「ウィンドウ」と言い換え、「ナビゲーション ウインドウ」と呼んでいます。本記事では本来の「ナビゲーション ペイン」と表記させていただきます。
これはワークシートへのアクセス性を格段に改善する、素晴らしい機能だと思うのですが、ネットではほとんど話題にならず、公式ドキュメントも素っ気ない感じです。
そこで本記事では、その紹介も兼ねて、ナビゲーションでワークシートの操作性がどう向上するのか、とことん検証してみたいと思います。
1. ナビゲーションとは
「ナビゲーション」はブック内のワークシートのリストを表示するペイン(小ウィンドウ)です。 これでシート名をクリックすればパラパラとアクティブシートを切り替えられるようになります。
しかも、リストは2階層のツリーになっていて、シート名をパカパカ開けば、ワークシート内にあるテーブルやグラフ、図形といったオブジェクトが全て表示され、クリックでダイレクトにアクセスできます。
【Note】ナビゲーション ペインは 2022年10月のアップデートでリリースされたようです。 本記事公開時点では、Windows 版 Microsoft 365 (サブスク版) Excel の「最新チャンネル」だけでしか使えないようです。 Microsoft 365 をご使用なら、まだ見当たらなくても随時反映されていくはずです。
これまでも、「シートの選択」という隠し機能的なものもあるにはありましたが、そのしょぼいリストボックスに比べたら格段の進歩です。
【Note】「シートの選択」とはシート見出しタブの左のほうにある「<」や「>」を右クリックしたときに表示されるダイアログです。
最新 Excel では「表示」タブの「表示」セクションに「ナビゲーション」ボタンが追加されています。
「ナビゲーション」ボタンを押すと、Excel ウィンドウの右端に「ナビゲーション」ペインが表示されます。
アクセスキーは Alt
⇒W
⇒K
になります。
【Note】公式ドキュメントによると、ステータスバーの「シート番号」からもクリックでナビゲーション ペインを開けることになっているようですが、筆者の環境では動作が確認できませんでした。 (やり方がちがうのかな?)
ナビゲーション ペインのリストにある任意のシート名やオブジェクト名をクリックすると、そのワークシートが開きます(アクティブ/フォーカス)。
これまで数個分しか見えないシートの見出しタブの横スクロールを凝視して、やっとのこと目的のワークシートを開いていた苦労に比べれば夢のようです。
ナビゲーション ペインのウィンドウは移動したり切り離したりもできます。例えばウィンドウの左端につければフォルダー表示風の使い勝手になります。
1.1. ナビゲーションの表示項目
ナビゲーションは単なるシート一覧ではありません。
ワークシートとその中に配置された全てのデータやオブジェクトが階層リストで表示され、ピンポイントでアクセスできます。
ナビゲーションに表示される項目を洗い出してみました。
表示項目 | 表示内容 | アイコン |
---|---|---|
ワークシート | シート名 | |
データのあるセル範囲 | アドレス | |
名前の定義をされたセル範囲 | 名前 | |
テーブル | テーブル名 | |
ピボットテーブル | ピボットテーブル名 | |
グラフ | オブジェクト名:グラフタイトル | |
描画オブジェクト(図形、画像など) | オブジェクト名 | |
スライサー | オブジェクト名 | |
コントロール(ボタンなど) | オブジェクト名 |
【Note】「コメント」や「メモ」は対象外になります。
1階層めのシート名は、ワークシートの並び順で表示されます(シート名ソート順ではなく)。
【Note】ちなみに、ワークシート以外のシートタイプの内、「グラフシート」シートや「Excel 4.0 マクロ」シートは、あってもナビゲーションには追加されません。 しかしなぜだか「ダイアログ」シートは追加されます🙄
2階層めのテーブルやグラフ、図形などシート配下の項目をクリックすると、そのワークシートが開くだけでなく、そのデータやオブジェクトが見える位置にまでシートをスクロールし、しかも対象を選択状態にしてくれます。
データのセル範囲は、スピルで動的にセル範囲が変更されても、自動で反映されます。
これからは、データのセル範囲全体を選択するというよくやる操作も、ナビゲーションからしたほうがスマートにできるでしょう。
【Note】セル範囲がナビゲーションから消えてしまう現象が何度かありました。 手元の環境で再現できたもので言うと、例えば、オートフィルター(Ctrl+Shift+L)を設定したセル範囲は、シート名ノードの開閉をしているうちに消えてしまうようです。 また「フィルターオプション」では自動で「Criteria」や「Extract」が定義され、これらもナビゲーションに追加されるのですが、このとき元データのセル範囲のほうがなぜかナビゲーションから消えてしまいます。
さらに、ナビゲーションの各項目を右クリックすると、メニューが現れて、「名前の変更」、「削除」、「非表示/再表示」といった対象の変更ができます。
「名前の変更」で、シート名やテーブル名の変更はだいぶ楽になりそうです。
グラフにはグラフタイトルも表示されますが、「名前の変更」で変更できるのは残念ながらオブジェクト名の方だけです。
【Note】グラフ名に「Chart 1」とあるのは不具合のようで本来は「グラフ1」のはずです。すでに修正対応済みのようなので、そのうち更新で直るでしょう。
セル範囲やテーブル、ピボットテーブルといったセルデータでは「削除」や「非表示」は使えません。
ところで、ナビゲーションのメニュー実行にはちょっと注意が必要です。
その変更結果を「元に戻す(Undo)」ことができないのです。
なので、特に「削除」での誤操作は取り返しがつきませんので気をつけてください。
ナビゲーションでデータやオブジェクトを選択した後 Delete
キーを押した方が安全かつ簡単なので、あえてナビゲーションで「削除」する使う必要はないかもしれません。
もしナビゲーションでもシートやオブジェクトを複数選択できたらもっと使い勝手が良かったのですが、今のところできません。
1.2. シートの操作・管理ツールとして
今あえて、「シートの操作・管理」という観点から期待されることに対して、ナビゲーションで「できること・できないこと」を洗い出すと次のようになります。
【できること】
- アクティブシートの切り替え
- シート名で絞り込み
- シート名で検索
- シート名の変更
- シートの削除
- シートの表示・非表示の切り替え
【できないこと】
- シートの新規作成
- シートの移動・複製(コピー)
- シート見出しの色の変更
- シートの保護
- シートの複数選択
- シートの並べ替え(ソート)
- シートの遷移履歴
- シートのブックマーク(ピン留め)
シートのナビゲートだけでなく、シートを管理するような機能もいくつかありますが、何でもできるわけではありません。
シートの名前変更、削除、表示・非表示の切り替えといった、個別のシートに対する変更機能はあります。
しかしシートの作成、移動、複製、並べ替えといった、ワークブックが持つシートの集まり全体を管理・操作するような機能は提供されていません。 基本は、あくまでワークシートへの移動の補助(ナビゲート)であり、シートの管理ではないのです。
うれしいことに、ペインにはシート名の「絞り込み」や「検索」機能も備わっていて、大量のワークシートがあっても効率的に特定できます。
また非表示に設定されたシートがリストで確認できるのもうれしいところです。 これまで非表示シートはその存在に気付くのも難しく、ときには地雷ともなっていたことを考えれば、安全面からも改善されたと言えます。
2. ナビゲーションの使い方
ナビゲーションは分かりやすくて簡単なので、使い方に迷うことも少ないと思いますが、ちょっとクセもありますので、使ってみて気付いた細かい仕様を確認していきます。
2.1. マウスでの操作
ナビゲーションは基本的にマウス操作だけで使えます。
シート名やオブジェクト名の項目をクリックすると、対象のあるワークシートがアクティブになります。
シート配下を開閉するには、シート名の左の開閉ボタン(や)をクリックします。
2.2. キーボードでの操作
一応、マウスを使わずにキータイプだけでも操作できます。
マウスを使ったときとは別の選択モードがあり、上下の矢印キーでリスト内で移動できるようになります。
キー選択モードでは、ノードの選択状態が線の矩形で表されます。 これはマウスクリックで選択したとき(ダークグレー)とは異なる状態です。
この状態で以下のキー操作が可能となります。
↑
(上矢印)キー:ノードを上に移動↓
(下矢印)キー:ノードを下に移動→
(左矢印)キー:シートノードを開く←
(右矢印)キー:シートノードを閉じるEnter
(またはSpace
)キー:データやオブジェクトに遷移TAB
キー:絞り込みボックスにカーソル移動(マウスモードでも可)
「一応」と断ったのは、この選択モードに使いこなすにはちょっとコツがいるからです。
まず、キー選択モードに切り替える方法自体がよく分かりません。
いろいろ試してみて、使えそうな方法をいくつか挙げると以下のようになります。
- シート名の開閉ボタンをクリックする
- ナビゲーション ペイン上で
TAB
キーを2回叩く ワークシートから(使えなくなりました)F6
キーを2回叩く
一番簡単なのはシート名の左の開閉ボタンからで、これをクリックしてから矢印キーを使えば、キー選択モードになっています。 ちょっと意味が分かりませんが、最初にマウスを使うのが難点です。
ナビゲーション の「絞り込み」ボックスの入力状態から TAB
キーを叩いても、リストにキー選択モードで移行できます。
ただそのための「絞り込み」のクリックさえも避けたかったら、TAB
キーでも入力状態にできます。
つまり、TAB
キーを2回叩けばキー選択モードになります。
ところで、シート名の選択状態から、矢印キー操作でパタパタとワークシートを切り替えて眺め(ザッピング)られたら便利そうなのですが、そう簡単にはさせてもらえません。
まずシート名の選択状態からキー操作だけでそのワークシートを開くことができません。
代わりに、その中にあるデータ名やオブジェクト名を選択しているときになら、Enter
(またはSpace
)キーを押せば対象がフォーカスされ、結果的にワークシートを開くことができます。
通常は何らかのデータやオブジェクトがあるはずなので問題ないと思いますが、新規ワークシートばかりだと途方に暮れるでしょう。
またこれでワークシートを開けても、ナビゲーションでワークシートを次々に切り替えることはできません。
コントロールがワークシートに移ってしまうため、ナビゲーションの操作を続行できないからです。 どうにかしてナビゲーション ペインに戻る必要があります。
キー操作だけで戻るには、 (使えなくなりました)F6
キーを2回タイプします。
指がこんがらがりそうですが、これで一応、キー操作のみでナビゲートできます。ただし、ノートPCではきついかもしれません
【Note】最近 Excel の
F6
キーを押したときの挙動が変わり、ナビゲーションペインへの移動には使えなくなくなりました。
2.3. 絞り込み
「絞り込み」ボックスで表示項目をフィルターすることができます。シート名やオブジェクト名にキーワードが部分一致する項目のみが表示されます。
キーワードを入力すると、シート名やオブジェクト名が部分一致する項目がインクリメンタルに絞り込まれます。
フィルターを解除するには、右端のX
アイコンをクリックするか、 Esc
キーを押します。
【Note】「絞り込み」ボックスに表示されている「テーブル、チャート、その他~」の「チャート」とはグラフのことです。
【Note】表示名ない文字で引っかかることもあるようなので、どこか内部的な名前も参照しているのかもしれません。
2.4. 検索
ドキュメントには記載がありませんが、リスト内の項目名を検索することもできます。
ナビゲーション ペインで Ctrl
+F
(あるいは Ctrl
+G
)をタイプすると「検索」ボックスが現れます。
【Note】ナビゲーション ペインをアクティブにしていないと、キーボードショートカットはワークシートに取られてしまいます。 ナビゲーション ペインをアクティブに切り替えるには、ペインの下の余白や「絞り込み」ボックスをクリックす
るか、あるいはます。F6
キーを2回叩き
検索ボックスにキーワードを入力すると、部分一致する項目名が黄色でハイライトされた状態になります。
あとは検索ボックスの ∧
と ∨
をクリックすれば、ヒットした項目間をジャンプできます。
キーボートの Enter
(あるいは Ctrl
+G
)(順方向) や Shift
+Enter
(逆方向)(あるいは Ctrl
+Shift
+G
) でも OK です。
検索ボックスを閉じるには右端のX
ボタンを押すか、Esc
キーをタイプします。
絞り込みとは違って、検索機能の対象は一覧の見えている項目のみです。 閉じられているシート名の配下やデータやオブジェクト、絞り込みで非表示となっている項目は、検索しても出てきません。
まとめ
もしかして、喜んでいるのは私だけでしょうか?
ナビゲーションは一見地味な機能追加のようですが、モダン Excel の UX を向上させる画期的な進歩だと思います。
最近流行りの「ダッシュボード」を一つ作るにしても、複数シートに配置された多くのテーブル、ピボットテーブル、スライサー、グラフなどを組み合わせる必要があります。
描画オブジェクトなどに対しても、確かに今までも「オブジェクト選択」ペインがありましたが、それはあくまでアクティブシート上にあるオブジェクトの管理に限定されていました。
これらを、全ワークシートを通して包括的に管理する機能はこれまで Excel にはありませんでした。
ナビゲーションを使えば、ワークブックにある全てのシートやデータ、オブジェクトを適切な名前で構成管理できるうえ、関連するデータやオブジェクトの内容を即座に確認できるようになるのです。
最近の PC モニターは横長で広いので、ナビゲーション ペインを開きっぱなしでもそんなに邪魔になるものでもないでしょう。
もうナビゲーションなしで Excel 生活はできません。
参考資料
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更新履歴
- [2023/01/15] 公開
- [2023/05/05] F6 での移動操作を取り消し